こんにちは、とし(@tyobory)です。
ミクロ経済学第11回テーマは「完全競争と市場均衡」です。
全体の目次:「完全競争と市場均衡」
2.完全競争市場(4つの前提条件)
3.余剰分析(総余剰・消費者余剰・生産者余剰)
4.従量税と従価税
本記事では、完全競争市場を定義し、余剰分析について掘り下げていきます。
【ミクロ経済学】完全競争市場の均衡【一般均衡分析】
完全競争とは何か。
市場需要と市場供給
消費者行動の理論では、消費者一人の需要と価格について取り上げてきました。ここでは、市場全体の需要曲線と供給曲線について理解します。
各個人 $\small i$ の需要を$\small D^{i}(P)$とすると、市場全体の需要は消費者一人一人の需要を足し合わせることによって求めることができます。
$\small D(P)=$$\small D^{1}(P)$+$\small D^{2}(P)$+…+$\small D^{I}(P)$
($\small i=1,…,I$)
つまり、市場需要曲線は各人の需要曲線を横に足し合わせることで、次のように図示されます。
同様に、各企業 $\small j$ の供給を$\small S^{j}(P)$とすると、市場全体の供給は各企業の供給を足し合わせることによって求めることができます。
$\small S(P)=$$\small S^{1}(P)$+$\small S^{2}(P)$+…+$\small S^{J}(P)$
($\small j=1,…,J$)
つまり、市場供給曲線は各企業の供給曲線を横に足し合わせることで、次のように図示されます。
このように、各個人の需要や各企業の供給を足し合わせることにより、市場需要曲線や市場供給曲線を表すことができます。
市場均衡(均衡価格と均衡取引量)
市場均衡は、上記の市場需要曲線と市場供給曲線の交点、需要と供給が一致する点で示されます。
このような完全競争的な市場では、需要と供給がバランスするように均衡価格($\small P^*$)と均衡取引量($\small Q^*$)が決定されます。
もし、市場価格が均衡価格よりも高いとき($\small P^{”}$)、市場では供給が需要を上回る超過供給の状態が起こります。すると、市場には買い手のない財があふれるため、財の価格が下落します。
逆に、市場価格が均衡価格よりも低いとき($\small P^{‘}$)、市場では需要が供給を上回る超過需要の状態が起こります。この場合、需要量の方が多く、買い手の競争により価格が上昇していきます。
このような価格調整を経て、需要と供給が等しくなり、市場均衡点は$\small E^*$となります。
完全競争市場の均衡【4つの条件】
完全な競争市場の場合、均衡価格は市場で決定されるため、すべての経済主体はプライステーカーとなります(つまり、価格を支配するプライスメーカーが存在しない市場)。
完全競争とは、市場に多数の消費者と生産者がいるため、各消費者や生産者が生産や消費を変えても、市場価格に影響がないような状態のこと(プライステーカーの仮定)
そして、完全競争市場が成立する条件として、下記の4つが挙げられます。
① 無数の消費者・生産者の存在
② 財の同質性
③ 情報の完全性
④ 市場への参入・退出の自由
完全競争市場では、無数の消費者と生産者が存在し、同一の財を取引すること、そして市場で売買される財に関する情報には差がないことを仮定します。
超過利潤が発生しているときには参入が起こり、逆の場合には退出が起こるという参入・退出の自由も条件となります。 |
ただし、現実世界ではこのような完全競争は非現実的で起こりませんが、経済学の理論として単純な状態を仮定して分析することは非常に重要となります。
余剰分析【総余剰・消費者余剰・生産者余剰】
余剰を知る。
余剰分析【総余剰・消費者余剰・生産者余剰】
需要曲線と供給曲線の交点が市場均衡点でしたが、取引を通じて消費者と生産者にどのような利益が生じるか確認します(下図)。
消費者余剰($\small CS$):市場において財の取引を行うことにより、消費者が得られる利益
生産者余剰($\small PS$):市場において財の取引を行うことにより、生産者が得られる利益
総余剰($\small TW$):市場全体の経済余剰
今、市場均衡点は$\small E^*(P^*,Q^*)$である。
このとき、消費者の中で、均衡価格よりも高い金額を払って財を購入しても良いと思っている人がいます。例えば、あるパソコンについて15万円出しても買いたいという人がいて、均衡価格が10万円の場合には、その差額15万円ー10万円=5万円分消費者は得をしています。これが消費者余剰であり、消費者の余剰利益です。
一方、生産者の中で、均衡価格よりも低い金額で財を売っても良いと思っている企業があります。例えば、あるパソコンの均衡取引価格が10万円であるが、生産者側は5万円で売っても良い考えているならば、差額10万円―5万円=5万円分、生産者に利潤が出ています。これが生産者余剰であり、生産者の余剰利益です。
これら消費者余剰と生産者余剰を足し合わせた市場全体の余剰を「総余剰」といいます(右図)。
なお、完全競争市場において総余剰は最大になります。つまり、消費者の効用も生産者の利潤も最大化されており、経済厚生上、最も望ましい状態を指します。
以上が、完全競争市場の余剰分析で、次はここに税金が課せられたとき、どのように余剰が変化するか見ましょう。
従量税と従価税の定義
まず、従量税と従価税を定義することから始めます。
従量税:政府が財・サービス1単位当たりに税金を課すこと(例:酒税、揮発税)
従価税:政府が税率を上乗せして税金を課すこと(例:消費税)
従量税は、財・サービス単位当たりに課す税で、酒税のように1kl当たりいくらのように税金を課します。一方、従価税は財・サービスの価格をに対して一定の比率で課せられる税のことです。
従量税と従価税は税金なので、需要と供給に影響を与え、経済厚生を変化させます。以下、社会余剰(経済厚生)の変化を図で見ていきましょう。
従量税と従価税の余剰分析
完全競争状態から従量税や従価税が課せられた場合、次のように経済厚生は変化します(下図)。
従量税の場合、政府は、財1単位当たりT円税金を課すため、企業の生産費用は増加し、供給曲線は傾きを変えず、Tだけ上方にシフトします($\small S_1→S_2$)
このとき、新しい均衡点は$\small E_2$となり、均衡価格は$\small P_2$、均衡取引量は$\small Q_2$となります。このとき、△$\small E_1 E_2 e$で、経済厚生の損失として死荷重が発生します。
―従量税の課税後―
消費者余剰:△$\small AP_2E_2$
生産者余剰:△$\small B_1P’e$
租税($\small T$):□$\small P’ P_2 E_2 e$(租税のため、余剰喪失)
死荷重:△$\small E_1 E_2 e$
総余剰:△$\small AB_2E_2(CS+PS)$
一方、従価税も考え方は同じですが、供給曲線はそのまま上方シフトするわけではなく、傾きも変化します。
―従価税の課税後―
消費者余剰:△$\small AP_2E_2$
生産者余剰:△$\small B_1P’e$
租税($\small T$):□$\small P’ P_2 E_2 e$(租税のため、余剰喪失)
死荷重:△$\small E_1 E_2 e$
総余剰:$\small TW=(CS+PS)=AP_2E_2+B_1P’e$
【補論】従量税と従価税を数式で考える
従量税の場合、租税は単位当たりで税金が課せられているため、次式で示されます。
$\small \Pi=TR(Q)-(TC(Q)+TQ)$
微分して、$\small P=…$とすると、
$\small P=MC+T$
供給曲線は限界費用曲線($\small MC$)で表され、T円上方シフトすることになります。
一方で、従価税の場合、財の価格に税率をかけることになるため、次のように示されます。
$\small \Pi=TR(Q)-(1+T)(TC(Q))$
微分して、$\small P=…$とすると、
$\small P=(1+T)MC$
このように、供給曲線の切片と傾きは(1+T)倍となる。以上となります。
おわりに:余剰分析の各定義を理解する
基本的には余剰分析では、グラフを書かせ、余剰を計算させるパターンが多いです。なので、小学校や中学校で習う面積の計算を正しく理解しましょう。
以上となります。参考になった方は応援もよろしくお願いします!
【参考文献】
尾山・安田(2013)『経済学で出る数学: 高校数学からきちんと攻める』日本評論社.
神取道宏(2014)『ミクロ経済学の力』日本評論社.
マクロ経済学の学習はこちら マクロ経済学を学ぶ【記事一覧】
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