こんにちは、とし(@tyobory)です。
マクロ経済学第5回のテーマは「乗数効果とは何か?」についてです。
目次:「乗数効果とは何か?」
2.政府支出乗数
3.租税乗数
4.均衡予算乗数
マクロ経済学の目的は、主に「国民所得」の分析にあります。
乗数効果は、ある経済政策を実施したときに、波及的に国民所得がどのくらい増加(減少)するのか、その倍率を示しています。
以下では、財市場のみを想定し、乗数効果について詳しく掘り下げていきます。
乗数効果とは何か?【数式で理解】
乗数を理解する。
乗数効果とは何か?【外生変数と内生変数を理解】
マクロ経済学は、変数を操作して国民所得を増加させることを目的の一つとしています。
内生変数(endogenous variable):モデルの中でその値が決まる変数
外生変数(exogenous variable):モデルの外でその値が決まる変数
一番分かりやすいのは、国民所得の需給均衡式です。
$\small Y=C+I+G$
$\small C=c_0+c_1(Y-T)$$\\$(Y:国民所得、I:投資、G:政府支出、T:租税)
内生変数:国民所得(Y)
外生変数:投資(I)、政府支出(G)、租税(T)
これら外生変数を操作したとき、内生変数である国民所得がどのくらい増加するか計算します。
政府支出乗数とは何か【数式で導出】
政府支出乗数の定義は次のようになります。
以下の経済モデル式から政府支出乗数を導出します。
$\small Y=C+I+G$
$\small C=c_0+c_1(Y-T)$
$\small I=一定$
$\small G=一定$
$\small T=一定$
国民所得の需給均衡式にそれぞれの値を代入すると、
$\small Y=c_0+c_1(Y-T)+I+G$
となります。ここで、Yについて解くと、
$\small Y=c_0+c_1(Y-T)+I+G$
$\small Y=c_0+c_1Y-c_1T+I+G$
$\small (1-c_1)Y=c_0+-c_1T+I+G$
$\small Y^*=\frac{1}{(1-c_1)}(c_0+-c_1T+I+G)$
となり、均衡国民所得($\small Y^*$)が求まります。政府支出乗数は政府支出の変化による国民所得の変化を指すため、 $\small Y^*$の式を政府支出($\small G$)で微分すると、
$\small \frac{\displaystyle ⊿Y^*}{\displaystyle ⊿G}=\frac{\displaystyle 1}{\displaystyle (1-c_1)}$ $\\$ $\small (⊿Y^*=\frac{\displaystyle 1}{\displaystyle (1-c_1)}\times⊿G)$
と定義されます。以上より政府支出乗数が得られ、政府支出が増えると国民所得も増加します。
租税乗数とは何か【数式で導出】
一方、租税(T)の場合ではどうでしょうか。
考え方は単純で、租税が増えると、($\small Y-T$):可処分所得は減るため、国民所得は減少します。
投資乗数は、上記の均衡国民所得($\small Y^*$)を租税($\small T$)で微分すると得られます。つまり、
$\small Y^*=\frac{1}{(1-c_1)}(c_0+-c_1T+I+G)$ $\\$ $\small \frac{\displaystyle ⊿Y^*}{\displaystyle ⊿T}=-\frac{\displaystyle c_1}{\displaystyle (1-c_1)}$ $\\$ $\small (⊿Y^*=-\frac{\displaystyle c_1}{\displaystyle (1-c_1)}\times⊿T)$
となり、租税が1単位増加すると、国民所得は$\small \frac{\displaystyle c_1}{\displaystyle (1-c_1)}$だけ減少します。
均衡予算乗数とは何か【結論、G=T】
最後に均衡予算乗数についてです。政府支出をするとき、予算の均衡を保つため、その財源を租税から賄うことを考えます。つまり、政府支出と同額だけ租税が増えるため、G=Tが成り立ちます。
以上により、
$\small Y^*=\frac{1}{(1-c_1)}(c_0+-c_1T+I+G)$
$\small Y^*=\frac{1}{(1-c_1)}{c_0+I+(1-c_1)G}$ $\\$$\small \frac{\displaystyle ⊿Y^*}{\displaystyle ⊿G}=1$
均衡予算乗数は1となり、政府支出を増加させた分だけ国民所得が増加することになります。
政府支出政策と減税政策【どっちのほうが効果的?】
これまで政府支出乗数と租税乗数の乗数効果を確認しましたが、どちらのほうが経済政策として効果的でしょうか。以下、この2つの乗数効果を比較します。
政府支出乗数:$\small \frac{\displaystyle ⊿Y^*}{\displaystyle ⊿G}=\frac{\displaystyle 1}{\displaystyle (1-c_1)}$
租税乗数 :$\small \frac{\displaystyle ⊿Y^*}{\displaystyle ⊿T}=-\frac{\displaystyle c_1}{\displaystyle (1-c_1)}$
減税乗数 :$-\small \frac{\displaystyle ⊿Y^*}{\displaystyle ⊿T}=\frac{\displaystyle c_1}{\displaystyle (1-c_1)}$
ここで、限界消費性向( $c_1$ )は $\small 0< c_1 <1$ のため、
$\small \frac{\displaystyle 1}{\displaystyle (1-c_1)} > \frac{\displaystyle c_1}{\displaystyle (1-c_1)}$
となり、減税よりも政府支出による乗数効果の方が大きいことが分かる。
これは、減税が可処分所得の増加を通じて消費を増加させるという間接的な総需要の増加に対して、政府支出の増加は直接的に総需要を増やすためである。
おわりに:経済学的な乗数効果の帰結を理解する
最近のトピックでは、オリンピック開催による公共事業への投資(政府支出)や消費税増税に伴うポイント還元による減税政策があります。
経済学の理論から言えば、減税政策をするよりも政府支出を増加させる方がマクロでみた国民所得は増加します。何となくのイメージでも、どっちの方がGDPに直結しているか理解できると思います。
まずは簡単な乗数理論から押さえ、特に数値計算をできるようになりましょう!
以上となります。参考になった方は応援もよろしくお願いします!
【参考文献】
中谷巌(2021)『入門マクロ経済学〔第6版〕』日本評論社.
齋藤誠他(2016)『マクロ経済学 新版』有斐閣.
大竹文雄(2007)『スタディガイド 入門マクロ経済学(第5版)』日本評論社.
マクロ経済学の学習はこちら マクロ経済学を学ぶ【記事一覧】
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