こんにちは、とし(@tyobory)です。
マクロ経済学第6回テーマは「貨幣需要」についてです。以下、目次です。
目次:「貨幣需要とは」
2.貨幣需要とその動機
3.流動性選好仮説(貨幣の資産需要)
4.流動性の罠
第5回までの内容は「財市場の均衡」について確認しましたが、今回から「貨幣市場の均衡」のテーマに入ります。その導入編として「貨幣需要」について取り扱います。
貨幣需要に関する一番の論点は、ケインズ学派の「流動性選好仮説」と「流動性の罠」です。
以下、これら内容を掘り下げていきます。
【マクロ経済学】貨幣需要とは何か?【資産市場と貨幣需要の動機を理解】
貨幣とは何か。
貨幣需要と資産市場(貨幣と債券を理解する)
まず、貨幣需要のコンセプトはある国の経済全体で必要とされる貨幣量を考えます。ここで、貨幣は人々の資産であり、資産市場は貨幣市場と債券市場の2つに分けます。
1.貨幣:自由に財・サービスを買えるお金(流動性ある)
2.債券:貨幣以外の資産。国債・株式・土地など利子が付く資産(流動性なし)
貨幣のような自由に取引できる資産を「流動性のある」資産といい、国債や株式などすぐに換金して取引できない資産を「流動性のない」資産といいます。
私たちは、資産を「流動性のある」貨幣で保有するか、債券など「流動性のない」利子付きの資産で保有するか選択していきます。
貨幣需要には3つある(取引需要・資産需要・予備的需要)
貨幣需要の動機は大きく分けて3つに分類することができます。
1.取引需要(取引動機にもとづく需要)
2.予備的需要(予備的動機にもとづく需要)
3.資産需要(投機的動機にもとづく需要)
取引需要は市場取引で使われる貨幣需要であり、経済活動の大きさに比例しています。また、予備的需要も将来の不果実な支出に備えた貨幣需要のことであり、取引需要と同様に経済活動の規模に比例している(国民所得の増加関数)。
最後に、資産需要とは、安全性の観点から貨幣と債券を比較して、資産として貨幣を選択する需要のことである。この安全性は利子率の水準で資産選択を考えます(資産需要は利子率の減少関数)
ここでの論点は、この資産需要を「流動性選好仮説」という概念から解釈するところです。これがケインズ経済学の真骨頂です。
貨幣の資産需要と流動性選好仮説・流動性の罠を理解【グラフで解説】
貨幣と債券の流動性を理解する。
貨幣の資産需要①【債券価格と利子率の関係】
貨幣の資産需要は、債券価格と利子率の関係から、資産需要の流動性を確認することができます。
過去に100万円の債券が利子率5%で発行されていたとする(満期になれば105万円で償還)。
ここで、利子率が変動し、「債券B(利子率8%)」もしくは「債券C(利子率3%)」が発行された場合、債券価格はどのように変化するだろうか。
債券Bの場合、債券Aよりも債券Bの方が利子率が高く、満期まで償還すれば108万円得られるので、人々は債券Bを保有しようとする。つまり、債券Aの需要が減り、債券価格は下落する。
一方、債券Cの場合、債券Aよりも債券Cの方が利子率が低く、満期まで償還しても103万円しか得られないので、人々は過去に発行された債券Aを保有しようとする。つまり、債券Aの需要が増え、債券価格は上昇する。
以上をまとめると、
利子率が上昇すると、過去発行された債券の価格は下落する。以上を踏まえた上で、将来の期待利子率から貨幣の資産需要を考察しましょう。
貨幣の資産需要②【債券価格と期待利子率】
将来の利子率を「期待利子率」とし、債券価格との関係を見ていきます。
将来の利子率が5%になると予想(つまり、人々の期待利子率は5%)。では、債券Bもしくは債券Cが発行されている場合、人々の貨幣の資産需要はどうなるでしょうか。
債券Bの場合
人々は将来、利子率が8%から5%に下がり、利子率5%の債券Dが発行されると予測します。このとき、将来債券Dを買うよりも、現在債券Bを購入していた方が償還時に得られる利息は大きくなります(8%>5%)。つまり、債券Bを買い増す人が増え、貨幣を債券に換えようとする需要がでます。
将来の期待利子率が低いとき、現在の貨幣の資産需要は小さくなる
債券Cの場合
一方、現在債券Cが発行されており、将来利子率が3%から5%に上がると予測します。このとき、現在発行されている債券Cの保有者は、将来利子率が上がったとき、債券Cは人気が無くなり債券価格が下落するので、売り抜けようとします。つまり、債券Cを売り抜ける人が増え、債券を貨幣に換えようとする需要が増えます。
将来の期待利子率が高いとき、現在の貨幣の資産需要は大きくなる
この関係性を示したものが「流動性選好表」となります。
貨幣の資産需要を「流動性選好表」と「流動性の罠」のグラフで理解
流動性選好表は貨幣の資産需要と利子率の関係性を表した図となります。
期待利子率を$r_e$と置いて考えると分かりやすくなります。
まず、利子率が $r_1$ のように十分高いとき、人々は将来利子率は下がると予測します。ここで、人々は利子率が高いときに、債券を買い増していた方が償還時に得になるため、貨幣を債券に引き換える需要が増えます。
⇒つまり、 $\small L_1<L_e$では貨幣を資産として持つ需要は小さい状態となります。
一方、利子率が $r_2$ が低いとき、人々は将来利子率が上がると予測すると、債券を買い増すよりも、利子率が上昇した時に債券を購入した方が得になるため、債券を貨幣に引き換える需要が増えます。
⇒つまり、貨幣を資産として持つ需要は大きくなり $\small L_2>L_e$となります。
貨幣の資産需要は利子率の減少関数(負の相関関係がある)
そして、$r_3$ のように利子率が下限に達しているとき、誰もが将来利子率が上昇し、現在発行されている債券価格は下落すると予想します。
つまり、誰もが現在発行されている債券をもたなくなり、債券を貨幣に換えようとし、利子率 $r_3$ で貨幣の資産需要は無限大となります(貨幣の資産需要曲線が水平)。
以上が、貨幣需要とその諸理論となります。
おわりに:貨幣の資産需要のグラフだけでも理解する
正直、貨幣の資産需要という概念は理解しづらいです。ポイントは、資産を貨幣で持つかそれ以外で持つかという話です。ざっくり要約すると、
-
- 貨幣の資産需要曲線は右下がり
- 利子率が高いとき、貨幣の資産需要は小さい(債券を持とうとするから)
- 利子率が低いとき、貨幣の資産需要は大きい(将来、現在の債券価格↓から)
- 利子率が下限に達しているとき、流動性の罠が発生(貨幣需要が無限大)
以上となります。参考になった方は応援もよろしくお願いします!
【参考文献】
中谷巌(2021)『入門マクロ経済学〔第6版〕』日本評論社.
齋藤誠他(2016)『マクロ経済学 新版』有斐閣.
大竹文雄(2007)『スタディガイド 入門マクロ経済学(第5版)』日本評論社.
マクロ経済学の学習はこちら マクロ経済学を学ぶ【記事一覧】
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