こんにちは、とし(@tyobory)です。
マクロ経済学第15回のテーマは「国際収支・経常収支・金融収支」です。
以下、全体の目次です。
目次:「国際収支・経常収支・金融収支(資本収支)」
2.経常収支と金融収支(資本収支)の関係性
3.経常収支の黒字(赤字)と資本収支の赤字(黒字)
これまでの記事では、IS-LMモデル分析において海外貿易がない閉鎖経済を想定してきました。
今回は、海外貿易がある開放経済について考察していきます。
開放経済モデルでは、国際収支(BP:Balance of Payment)という概念を使い、国際収支を経常収支と金融収支の2つに大別して分析を行います。
本記事では、国際収支・経常収支・金融収支の概念的な部分についてまとめていきます。
【マクロ経済学】国際収支(BP)・経常収支・資本収支とは?
国際収支の内訳を理解する。
国際収支とは【国際収支・経常収支・資本収支、etc】
まず、マクロの経済モデルは、海外貿易のあり、なしで分けられます。
閉鎖経済:海外取引のない経済(海外部門を考慮しない)
開放経済:海外取引のある経済(対外経済取引あり)
国際収支とは、一定期間内に行われた外国との経済取引(対外経済取引)を体系的に記録したもの
この開放経済における国際収支は、経常収支と金融収支(資本収支)によって示されます。
- 経常収支:財・サービスの海外取引による収支(NX=X-M)
- 金融収支(資本収支):資本の海外取引による収支(F=FI-FO)
- 国際収支の恒等式(経常収支-金融収支+資本移転等収支+誤差漏洩=0)
経常収支(NX)は、財・サービスの輸出額(X)から輸入額(M)を差引くことにより、純輸出額として表されます。
金融収支(F)は、資本流入(FI)から資本流出(FO)を差引くことにより表されます(純資本流入)
金融収支は、もともと資本収支と呼ばれ、IS-LM-BP分析では「国際収支=経常収支-資本収支=0」の恒等式がよく使われます(下記図表のように項目が組み替えられました)。
2014年から、国際収支は経常収支・資本移転等収支・金融収支の3つの大区分で構成されており、以下ではさらに掘り下げていきます。
経常収支とは
経常収支は、金融収支に計上される取引以外の、居住者・非居住者間で債権・債務の移動を伴う全ての取引収支を示します。
項目は次の3つです。
2.第一次所得収支:雇用者報酬、対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支
3.第二次所得収支:居住者と非居住者との間の対価を伴わない資産の提供に係る収支
貿易・サービス収支は、実体取引を伴う海外取引です。特に、サービス収支の主な内容は、輸送・旅行・金融・知的財産権等使用料(特許・著作権)です。
第一次所得収支は、居住者と非居住者との間の生産要素(労働、資本)の提供に対する雇用者報酬や投資収益が計上されます。
第二次所得収支は、対照的に対価を伴わない資産の提供に係る収支のこと。官民の無償資金協力、寄付、贈与の受払などが含まれます。
このように、経常収支は、実体経済にかかわる取引に着目した項目となっています。
資本移転等収支とは
資本移転等収支は、旧統計では「その他資本収支」として資本収支の一項目で、2014年1月以降の新統計にて、経常収支、金融収支と並ぶ大項目となりました。
具体的には
・特許権などの知的財産権、販売権、譲渡可能な契約の取得・処分の収支
・大使館あるいは国際機関による土地の取得・処分の収支
イメージとしては、経常収支にも金融収支にも属さない、取得・処分の収支をまとめたもの、といった感じですかね。
金融収支(資本収支)とは
金融収支は、居住者と非居住者との間で行われた、債権・債務の移動を伴う金融・資本取引の収支、および外貨準備の増減の合計として表されます。
金融収支の項目は、次の5つです。
1.直接投資収支
2.証券投資収支
3.金融派生商品収支
4.その他投資収支
5.外貨準備増減
直接投資収支では、 海外で事業活動を行うために企業を買収(株式の取得)したり、生産設備などに投資したときの資本取引を計上します。
証券投資収支は、居住者と非居住者の間の証券投資にかかる債務・債務の移動を伴う取引の収支です(利子・配当金等は、経常収支の第一次所得収支に該当しましたよね)。
この他にもありますが、「金融収支」は、ざっくり直接投資や債券・債務そのものの取引等と理解して頂ければOKです。
最後に、外貨準備は通貨当局が為替相場の安定を図るための為替市場介入を目的として、いつでも使用できる形で保有する資産のことを言います。
外貨準備だと預金が積立てられているイメージですが、一番多いのは外国債券の米国債で、推計として外貨準備高が約3兆ドルあります。
以上、国際収支では「経常収支-金融収支+資本移転等収支+誤差漏洩=0」が成り立ちますが、この関係性について、さらに深掘りしていきます。
【国際収支】経常収支と金融収支(資本収支)について【黒字・赤字】
経常収支 ⇔ 金融収支(資本収支)の関係。
経常収支と金融収支(資本収支)の関係性
国際収支において、経常収支と金融収支は表裏一体の関係で、片方が黒字であれば、もう片方は赤字となります(以下、まとめ)。
経常収支(純輸出)が黒字ならば、金融収支(資本収支)は赤字となる
経常収支(純輸出)が赤字ならば、金融収支(資本収支)は黒字となる
国際収支の恒等式:経常収支+資本移転等収支=金融収支(資本収支:資本流入-資本流出)
経常収支は、需給均衡式の純輸出$\small (NX:X-M)$として表されます(以下、開放経済モデル)。
$\small Y=C+I+G+(X-M)$
$\small Y-(C+I+G)=(X-M)$
ここで、国内総需要:$\small A=(C+I+G)$、経常収支:$\small NX=X-M$とおくと、次のようにまとめられます。
$\small NX=Y-A$
(NX:経常収支、Y:国民所得、A:国内総需要(アブソープション))
このように、経常収支の黒字・赤字は、国民所得と国内総需要の大小によって決定されることを、アブソープション・アプローチといいます。
国民所得(Y)> 国内総需要(A)のとき、経常収支は黒字
国民所得(Y)< 国内総需要(A)のとき、経常収支は赤字
アブソープションは「内需」を意味しており、経常収支は国民所得と内需で決定されるという、経常収支理論の一つです。
他にも、ISバランス・アプローチがありますが、それは別の記事にまとめようと思います。
話に戻り、経常収支が黒字・赤字のとき、資本の動きがどうなるかについて確認していきます。
経常収支が黒字の場合【資本収支が赤字】
経常収支が黒字のとき、金融収支(資本収支)は赤字となります。
このときの資本の流れは、次のようになります(下図)。
(借方) | (貸方) |
お金(資産) ✕✕ | 財・サービス ✕✕ |
国際収支表は複式簿記で記載され、資産・負債の増減が表されます。
■財・サービスの取引が黒字(経常収支が黒字)
財・サービスの輸出が輸入(EX-IM)を上回っているとき、経常収支が黒字となります。
⇒このとき、海外取引により財が輸出された場合、これは国内の資産は減少します。
⇔複式簿記では、貸方に財・サービスの減少を計上します。
⇒一方、海外からの財の購入は資金の増加をもたらす。
⇔簿記では、借方に資金(外貨)の増加を計上します。
(経常黒字で獲得した資金(外貨)は、海外投資に回り、資本流出が起こる)
ここで、経常収支が黒字の場合、借方には資金(外貨)が計上されますが、これらの外貨は海外への貸付や外国債券の購入に使われるため、資本流出が起こり、資本収支は赤字となります。
以上のように、財・サービスの流れと資本の動きは真逆になり、国際収支の恒等式が成り立つ仕組みとなっています。
経常収支が赤字の場合(資本収支が黒字)
長年、日本は経常収支が黒字で、対外的に最も資産(対外資産)を持つ国の一つとなりました。
2010年代前半は、原油高騰により貿易収支が悪化し、経常収支が大幅に減少しましたが、ここ20年以上みても、日本では経常収支が赤字になったことはありません。
では、仮に経常収支が赤字の場合、どのような資本の流れになるか確認しましょう(下図)。
経常収支が赤字になる場合として、貿易・サービス収支の赤字拡大が考えられます。
これをアブソープション・アプローチで考えると、
$\small NX=Y-A<0$
経常収支が赤字のとき、国民所得(Y)<国内総需要(A)となり、海外からの輸入が多い状態です。
つまり、対外資産を取り崩しや海外からの借り入れなどのファイナンスを行い、海外取引の支払いに備えて、資本流入が起きます。
以上より、経常収支が赤字のとき、外貨支払いのために資本流入が起こり、金融収支(資本収支)は黒字となります。
ざっくり、こんな感じとなります。
おわりに:マンデル=フレミングモデルへの布石
国際収支について理解することは、次のマンデル=フレミングモデルへの布石となります。
マンデル=フレミングモデルは、開放経済におけるIS-LM分析となります。
IS-LM分析は以下の記事にまとめていますので、ご参考ください。
次回のマンデル=フレミングモデルの記事はこちらになりますので、是非ご参考ください。
【lecture.16】資本移動完全のマンデルフレミングモデル(固定相場・変動相場)
【lecture.17】資本移動なしのマンデルフレミングモデル(固定相場・変動相場)
以上となります。参考になった方は応援もよろしくお願いします!
【参考文献】
中谷巌(2021)『入門マクロ経済学〔第6版〕』日本評論社.
齋藤誠他(2016)『マクロ経済学 新版』有斐閣.
大竹文雄(2007)『スタディガイド 入門マクロ経済学(第5版)』日本評論社.
マクロ経済学の学習はこちら マクロ経済学を学ぶ【記事一覧】
ミクロ経済学の学習はこちら ミクロ経済学を学ぶ【記事一覧】
編入希望の方はこちら 【編入】独学で経済学部の編入試験に合格する方法【ロードマップ】