こんにちは、とし(@tyobory)です。
マクロ経済学第13回テーマ「古典派とケインズ派の貨幣数量説」です。
目次:「古典派とケインズ派の貨幣数量説」
2.マーシャルの現金残高方程式
3.フリードマンの新貨幣数量説
4.古典の貨幣理論(貨幣の中立性)
5.ケインズ派の貨幣数量説
古典派の貨幣数量説は、フィッシャーの交換方程式・マーシャルの現金残高方程式から記述されます。
これに対して、ケインズ派は「貨幣の資産需要」を用いて、古典派の貨幣数量説を批判していきます。
「貨幣の資産需要」の内容は、以下の記事で解説していますので、あいまいな人はご確認ください!
⇒【マクロ経済学】貨幣需要とは何か?
⇒【マクロ経済学】LM曲線の導出について【LM曲線と金融政策】
以下、古典派とケインズ派の貨幣数量説について概観していきます。
【マクロ経済学】古典派の貨幣数量説
3つの貨幣数量説を押さえる。
古典派の貨幣数量説【金融政策無効論】
古典派の貨幣数量説は、主に3つの方程式で記述されます。
1.フィッシャーの交換方程式
2.マーシャルの現金残高方程式
3.フリードマンの新貨幣数量説
古典派の貨幣数量説は、マーシャルの現金残高方程式を変形して貨幣市場の均衡が導出されます。
ざっくりした内容は、古典派が想定する貨幣理論では、金融緩和政策はインフレのみを発生させるだけで、国民所得は増加しないという金融政策無効論を主張しています。
まずは、フィッシャーの交換方程式から定義します。
フィッシャーの交換式【貨幣の流通速度】
家計と企業の間では、財の取引に対する支払い手段として貨幣が使用されます。
フィッシャーは、財と貨幣を交換するとき、同等の価値が取引されると考えました。
つまり、財の取引に対する貨幣の流通総額は次のように示される。
$\small MV=PT$
Mは名目貨幣供給量、Vは貨幣の流通速度、Pは物価水準、Tは財の取引量である。
※貨幣の流通速度・・・貨幣が取引に使用された頻度
左辺(M×V)は、ある経済で貨幣が流通する額(貨幣総額)
右辺(P×T)は、ある経済で財がいくら取引されたか(財の取引額)
古典派は、財の取引量(T)は完全雇用水準で一定であり、かつ貨幣の流通速度(V)もまた一定とすると、残る変数は、名目貨幣供給(M)と物価水準(P)となります。したがって…
これがフィッシャーの交換方程式の考え方です。
次に、このフィッシャーの交換方程式を変化させたのが、マーシャルの現金残高方程式となります。
マーシャルの現金残高方程式
マーシャルは、財の取引量(T)を国民所得(Y)に置き換えて、次式を現金残高方程式と表しています。
$\small MV=PY$
$\small M=\dfrac{1}{V}PY$
⇔$\small M=kPY$
(k:マーシャルのk)
財の取引により所得が得られるため、財の取引(T)=国民所得(Y)としました。
このYは、金額ではなく取引量を実質的な豊かさで示した国民所得で表しているため実質国民所得に該当し、物価(P)を乗じることで、国民所得が金額として示されます(PY:名目国民所得)
ここで、貨幣の流通速度(V)を移項し、その逆数を$\small \frac{1}{v}=k$(マーシャルのk>1)とすると、、、
$\small M=kPY$
⇔$\small k=\dfrac{M}{PY}$
このkが意味することは、2行目のように、名目国民所得(PY)のうち、貨幣で保有される割合を示しています。つまり、$\small kPY$ は、「名目国民所得のうち貨幣で保有する額」を示すことになります。
この場合も同様に、$\small k$と$\small Y$を一定とするため、中央銀行が金融緩和政策を行って、名目貨幣供給量(M)を増大させたとしても、物価($\small P$)のみが上昇するという結論となります。
これが、マーシャルの現金残高方程式の考え方となります。
これに対して、別の解釈を行ったのが、フリードマンの新貨幣数量説です。
フリードマンの新貨幣数量説
フリードマンは、マーシャルのkが名目国民所得に応じて変動することを主張しました。
【好況の場合】
好況の場合、名目国民所得(PY)は増加するため、k($\small = \frac{1}{v}$)は下落します。
つまり、逆数をとる貨幣の流通速度(V)は増加するため、「人々は名目国民所得を貨幣(現金)で持たない」という解釈となります。
【不況の場合】
逆に不況の場合、名目国民所得(PY)は減少するため、k($\small = \frac{1}{v}$)は上昇します。
不況だと貨幣の流通速度(V)は低下するため、「人々は名目国民所得を貨幣(現金)で持つ」という解釈となります。
このように、フリードマンはマーシャルのkが一定ではないという立場(マネタリストーシカゴ学派)をとり、ケインズ学派の理論(ケインジアン)に対抗して、新貨幣数量説を主張することとなります。
※歴史的には、新貨幣数量説はケインズ理論の後になります(ケインズ革命に対して、マネタリスト反革命と言われます)。
まとめ:古典派の貨幣数量説は貨幣の中立性
古典派の貨幣数量説をまとめると…
中央銀行が金融緩和政策を実施して、名目貨幣供給量を増加させたとしても、実物経済には何ら影響を与えず、物価上昇(インフレ)のみがもたらされる。
⇒ つまり、「名目貨幣供給量は、実質変数には何も影響を与えず、物価の絶対的な水準を決めているのにすぎない」、ということです。
これを、貨幣の中立性と呼びます。
※実質変数:実質GDP、消費、投資、雇用量、失業率などの変数
また、貨幣の役割は単に実物の交換取引を容易にするための手段であり、このように雇用や生産、消費などの経済行動に影響を与えることはないとしてますよね。
そのため、貨幣は実体経済を覆うベールのようなものと捉え、このことを「貨幣ヴェール観」とも表現されます。この一連の解釈が、古典派の貨幣数量説やフリードマンの新貨幣数量説となります。
これに対して、批判したのがケインズです。以下では、ケインズ学派が古典派の貨幣数量説に対して、どのような批判をしたかを掘り下げていきます。
【マクロ経済学】ケインズ学派の貨幣数量説【貨幣の非中立性】
ケインズは貨幣が実物経済に影響を与えることを主張。
ケインズ学派は貨幣需要を3つに分類(取引需要・資産需要・予備的需要)
おさらいですが、ケインズ学派は、貨幣需要の動機は3つに分類しました。
1.取引需要(取引動機にもとづく需要)
2.予備的需要(予備的動機にもとづく需要)
3.資産需要(投機的動機にもとづく需要)
※「貨幣需要とは何か?」「LM曲線の導出について【LM曲線と金融政策】」の記事を参照。
取引需要は市場取引で使われる貨幣需要であり、経済活動の大きさに比例しています。また、予備的需要も将来の不果実な支出に備えた貨幣需要のことであり、取引需要と同様に経済活動の規模に比例している(国民所得の増加関数かつ一定)。
最後に、資産需要とは、安全性の観点から貨幣と債券を比較して、資産として貨幣を選択する需要のことである。
(資産需要は利子率の減少関数)
ここでのポイントは、資産としての貨幣需要(資産需要)です。この点が、古典派の貨幣数量説と大きく異なります。
ケインズ学派の貨幣数量説【数式とグラフで解説】
ここで再度、古典派の貨幣数量説である現金残高方程式を確認します。
$\small MV=PY$
$\small M=\dfrac{1}{V}PY$
⇔$\small M=kPY$
⇔$\small \dfrac{M}{P}=kY(=L_1)$
$\small \dfrac{M}{P}$:実質貨幣供給量、$\small kY(=L_1)$:貨幣の取引需要
ケインズは現金残高方程式について、貨幣の取引需要(予備的需要含む)しか考慮していないことを批判し、上記のモデル式に貨幣の資産需要を加えて、次式のように修正しました。
~ケインズ派の貨幣理論~
$\small \dfrac{M}{P}=L_1(Y)+L_2(r)$
$\small L_1(Y)$:貨幣の取引需要、$\small L_2(r)$:貨幣の資産需要
貨幣の取引需要($\small L_1$)は国民所得の増加関数であるため($\small Y$)とし、貨幣の資産需要($\small L_2$)は利子率の減少関数であるため($\small r$)と表しています。
グラフにおいて、貨幣需要は$\small x$ 軸上の$\small L_1(Y)$と$\small L_2(r)$で示され、実質貨幣供給との交点で均衡します。
ここで、金融緩和政策を実施すると、名目貨幣供給量は増加し、右にシフトします。
⇒このとき、貨幣の資産需要が増加するため、利子率が下落する必要があります。
つまり、ケインズは、中央銀行による金融緩和政策は、利子率の下落とともに、企業の投資を誘発させるため、総需要は増大する、と主張しました。
そして、有効需要の原理に従い、国民所得が増加するとして、金融緩和政策の有効性(貨幣の非中立性)を主張・展開しました。
まとめ:古典派の貨幣数量説⇒ケインズ理論⇒新貨幣数量説
このように、マクロ経済学のフレームワークはケインズ理論から始まったと言っても過言ではありません。
以下、マクロ経済学の学問的な流れは、ざっくりこんな感じです。
まずは、古典派:「貨幣の中立性」⇔ケインズ派:「貨幣の非中立性」を理解しましょう。
特に、ケインズ理論のIS-LMモデルは重要なので、IS・LM曲線の導出からモデル分析までブログ記事にまとめているので、以下をご参考ください。
まずは、インフレ・ギャップやデフレ・ギャップはケインズ派の理論であることを覚えておきましょう。
以上となります。参考になった方は応援もよろしくお願いします!
【参考文献】
齋藤誠他(2016)『マクロ経済学 新版』有斐閣.
大竹文雄(2007)『スタディガイド 入門マクロ経済学(第5版)』日本評論社.
マクロ経済学の学習はこちら マクロ経済学を学ぶ【記事一覧】
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